美酒×美食やまがた

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「さとう」 くだもの、野菜、お米。大自然が育んだ、甘みの物語 豊かで、やわらかな甘み。

さくらんぼ

「山形のフルーツと言えば?」。この問いに、多くの県外の人は「さくらんぼ」と答えるのではないだろうか。
県内随一のさくらんぼ生産量を誇る東根市は、代表品種「佐藤錦」発祥の地でもある。最上川の支流・乱川の扇状地である東根市は、水はけのよい土質で、多くの土地が田んぼではなく畑として利用されてきた。さくらんぼの栽培が始まったのは明治初期、政府から西洋果樹の苗木が配布されたことがきっかけだったが、収穫期が梅雨と重なるため実割れが多く発生し日持ちもしないことから、生産量はなかなか伸びなかった。新しい品種をつくれば、もっとさくらんぼを広めることができるのではないか。そう考え、実が固く酸味の強い「ナポレオン」と、豊かな甘みを持つが保存の難しい「黄玉」の交配に挑んだ人物がいる。15年に渡る挑戦の末に見事交配を成功させた佐藤錦の「生みの親」、佐藤栄助さんだ。そして、佐藤錦を語る上で、欠かせない人物がもう1人。友人として佐藤さんの挑戦を支え、交配成功後の普及に尽力した「育ての親」、岡田東作さんだ。
この2人の努力が結実し、佐藤錦が誕生した「さくらんぼの聖地」で、古くから観光果樹園を営んできた太田忠良さんもまた、先進的な取り組みを続けてきた人物である。高校卒業後、県の果樹試験場の仕事に就いた太田さんは、1年後なんとアメリカに渡っている。

「外務省の交換留学制度でアメリカに行かないか、と県職員の方から声がかかったんです。なかなかないことだなと思い、手を挙げて行かせていただきました」。
みっちり2年間かけて農業について学び、帰国した太田さんは、息つく間もなく今度はヨーロッパへ。
「アメリカで勉強しただけでは足りないから、ヨーロッパの農業を見てこい。父にそう言われて、ヨーロッパのさまざまな国の農業の現場を巡ってきました。いろんなスタイルの農業を現地で見ることができたのは、とてもいい経験でしたね」。
海外でたくさんの学びを得て太田さんが就農したのは、今から50年ほど前のこと。現在も太田さんが拠点を構えている東根市神町は、戦前の開拓事業で人が増えた地域。太田さんの家でも開拓による土地は所有していたが、お父さんは農業とは別の仕事で生計を立てていたそうだ。土地はあるが、農業のノウハウも資金もない。まずは資金を集めることから、太田さんの農業は始まった。

じっくりと観察し、土や木が喜ぶことを見極める。

「交換留学でお世話になったアメリカの大学教授に電話をしてりんごの苗木を輸入させてもらい、増やしながら販売したんです。青森で、稲作から果樹への大規模な転作事業が行われていた時期で、ものすごい数の苗木を売りましたね」。
資金を得た太田さんは、すぐにさくらんぼの栽培を開始。当時はまだ観光果樹園はほとんどなかったそうだが、仙台から遊びに来る人が増えるのではないかと推測し、観光果樹園も同時にスタートさせたという。
さくらんぼを育てる上で、太田さんが大切にしていることの1つに土づくりがある。植物にとっていかに土が重要か、気づかせてくれたのはお母さんが育てていたある花だという。
「母が菊の盆栽をやっていたんですが、試しに私の畑の土を使い同じ環境で育ててみたんです。そうしたら、母の土の方は見事な大輪の花を咲かせたにもかかわらず、私の畑の土の方は線香花火のような小さく弱々しい花しか咲かなかった。気落ちしなかったわけではないですが、土を改善していけばいいという方向性が見えたので、すぐに気持ちを切り替えて頑張ることができましたね」。

しかし、いい土をつくるのはそう簡単なことではなかった。考えては試し、また考えては試す。手探りで進む毎日は、答えが見つからない日の方が多かっただろうが、この経験が太田さんの農業の柱になっていると言う。
「とにかくじっくりと観察することなんです。土も木もとにかく正直なので、プラスなこともマイナスなこともこちらのアクションがそのまま返ってくるんです。土や木の声に耳を傾けて、プラスなことはより大きなプラスに、マイナスなことはその原因を確実に特定し解消していく。その繰り返しでしかないんですよ」。
土の声を聞きながら、試行錯誤を重ねたどり着いた答えは、多様な植物性有機質をたっぷりと与えることだった。
「植物にとって、土は食事です。人と同じで、栄養のある食事がなければ健康を保つことはできません。そして、1つのものを食べ続けると飽きてしまうのもまた人と同じで、さまざまな種類の有機質を与えるのは、そのためなんです。よく『いい土にはミミズがいる』って言うじゃないですか。実は、それだとまだ中途半場だということにも気がつきました。ミミズがいるということは、その餌となるセルロースが土の中にあるということ。目指すべきは、セルロースが分解され菌など微生物が住むような土なんです。これも情報を鵜呑みにせず、しっかりと土を観察したからこそわかったことなんですよ」。
また、土づくりと同じくらい太田さんが大切にしていることが、太陽との関係だ。
「人が健康でいるために、食事の他に運動や睡眠が必要になってくるように、木も食事だけでは健康を維持できません。ご存知の通り、植物は葉で光合成をすることで成長に必要な養分を自らつくり出します。木にとって、食事の他に特に大切になってくるのは日光浴なんです。多くの葉が日光を浴びられるよう、枝が水平方向に伸び、また上下で重ならないように工夫をして剪定をしています」。

大自然の中でいただく、鈴なりの豊かな味わい。

試行錯誤しながら、少しずつ改善を重ねてきた太田さんのさくらんぼ。果樹園におじゃましてまず驚いたのが、例えではなく、本当に「鈴なり」にさくらんぼが実っていること。そして食べてみて、さらにびっくり。甘さやすっぱさなど、それぞれの味がはっきりしているだけでなく、食べ始めから飲み込むまでに少しずつ変化するのだ。
「繰り返しになりますが、植物は手をかければかけただけ返してくれる。植物が喜ぶことを常に考え、ごまかさずに丁寧に手をかけることが、いいものをつくる唯一の方法なんです」。
半世紀以上に渡り、農業の道で生きてきた太田さん。いいものをつくるために工夫を続けることは、今でもとてもおもしろく、大きなやりがいを感じているという。そして今、子どもの頃からの夢を叶えるべく新たな挑戦をスタートさせたそうだ。
「さくらんぼだけじゃなく、自然を感じながら釣りをしたり、バーベキューをしたりして1日中楽しめるような場所をつくりたい。それが小さな頃からの夢で、いろんなところで語っていたら手を貸してくれる人が増えてきて、今少しずつ形になってきているんです。夢は持ち続け、語り続ければ実現するということを実感していますね」。
そう言って笑う太田さんの目は、きらきらと輝いていた。味わい豊かなさくらんぼはもちろん、それを育む大自然ごと満喫する旅に出かけてみてはいかがだろうか。

最上伝承野菜スイーツ

山形県北東に位置する、最上地域。先人たちが代々種を採り守ってきた、土地の在来種を使った「伝承野菜スイーツ」は、ある1人の若い生産者の声がけがきっかけで生まれたものだ。その生産者とは、おばあさんから受け継いだ在来種「甚五右ヱ門芋」を主軸に農業を営む、「森の家」の佐藤春樹さんだ。農業を始めたのは、夜勤の仕事をしながら、日中空いた時間に家の農作業を手伝ったことがきっかけだったという。
「いざやってみたらなかなかおもしろくて、まずは知識を身につけようと農業大学校に通い始めました。甚五右ヱ門芋の存在に気がついたのもその頃で、何をつくろうか迷っていたときに『伝承野菜はどう?』と先生にアドバイスをいただいたんです。家に帰って相談してみたら祖母が毎年自家用につくりながら、種を採り続けてきたことがわかって、これだと思いましたね」。

最初の2年は種を増やすことに専念し、3年目から本格的に販売を始めると、3トンほどあった芋は完売。「味も食感もいい里芋だから、もっとたくさんの人に食べてほしい」。確かな手応えを感じながら、佐藤さんの頭にはこんな考えが浮かんでいた。伝承野菜スイーツの「種」が生まれた瞬間だ。
「真室川でお菓子と言ったら平和堂さんしかいないなと思って、面識はなかったんですが声をかけさせてもらいました」。そう言う佐藤さんに「いきなりの無茶振りだったよね」と平和堂店主の阿部陽一さんは笑う。
「伝承野菜の存在自体、声をかけてもらうまで知りませんでした。里芋でお菓子をつくったこともなかったので、まずは言われるまま塩で食べてみたんです。驚くほどに粘りが強くてクリーミーだったので、それを活かしたお菓子にしたいなとすぐに思いつきました」。

こうして生まれた、伝承野菜スイーツの「タルト甚五右ヱ門」。「タルトをつくるとき、普通はクリームを絞ってから焼くんですが、甚五右ヱ門芋のクリーミーさを活かすため、後から芋のクリームをしぼっているんです」と阿部さん。「完全にお任せ状態だったんですが、うまく特徴を活かしてくださって本当に感謝ですね。このクリーミーさを、ぜひ味わってほしいです」と佐藤さんは続ける。
甚五右ヱ門芋を使ったものがタルトの他に同じく真室川町の「勘次郎胡瓜」のジュレ、「黒五葉」のモンブランとプリン、お隣金山町の「漆野いんげん」のモンブランと、現在伝承野菜スイーツは全部で7種類。
「最上にはまだまだ伝承野菜がありますが、残念ながら生産者さんは少しずつ減ってきています。なんとかつくり続けていただき、先人たちが守ってきた種をつないでいくために、今後も伝承野菜の特徴を活かしたお菓子をつくり、全国に発信していきたいですね」と阿部さんが言うと「毎年楽しみにしてくれているお客さまに、継続して確実に芋をお届けできるように、地道に努力を続けていきます」と応える佐藤さん。
1つの芋と2人の取り組みから生まれた伝承スイーツの輪は、まだまだ広がっていくことだろう。

Photo by Kohei Shikama

TOPICSあの「つや姫」に
凛々しい弟君誕生!

「白さ」「つや」「甘み」が特長の「つや姫」の弟君として、2018年より本格的にデビューした山形県の新品種「雪若丸」。その名のとおり、際立つ白さとつやのある外観が雪のように美しく、ほのかな甘みが特長。しっかりとした粒感と適度な粘り気が両立した、これまでにない新食感を楽しむことができる。2017年度に試験的に栽培されたものが米の食味ランキングで最高位の「特A」を取得しており、味のよさも実証済みだ。

問/山形つや姫雪若丸ブランド化戦略推進本部
 (山形県農林水産部県産米ブランド推進課)
023-630-2476

第6の調味料 眺め、遊び、浸かる。おいしい旅の隠し味第6の調味料眺め、遊び、
浸かる。おいしい旅の隠し味

おいしい食事に欠かせないのは、なんと言っても空腹。
足を延ばしていろいろ巡れば、旅はまだまだ美味しくなる。
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