美酒×美食やまがた

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「しお」 山から海へ。水の循環が生み出す、しょっぱみの物語

天然岩牡蠣

貴重な食材だからこそ、一期一会の楽しみを。

牡蠣の旬は冬。そんなイメージをお持ちの方も多いかもしれないが、実は牡蠣の旬は種類によって異なる。真牡蠣が冬に旬を迎えるのに対し、山形県北西部、日本海に面した庄内地方の特産「岩牡蠣」は夏に食べ頃を迎える。
「養殖が大半を占める真牡蠣は、大粒なものになると味がぼんやりしてしまいがちなんですが、岩牡蠣は味がしっかり乗ったまま大きくなるんです」。地元食材にこだわった「酒田でしか味わえないフランス料理」を提供する酒田市の「Restaurant Nico」のオーナシェフ・太田舟二さんは言う。

庄内浜産と一口に言っても、細かな産地によって岩牡蠣の味わいは異なるそう。「味の濃厚さなら、遊佐町の吹浦産」だという。その秘密は、海の中に湧き出てくる伏流水にあると考えられている。
吹浦港がある遊佐町は、人口14,000人ほどの庄内地方の最北端の町。標高2,236m、日本百名山の一つに数えられる鳥海山から町のいたるところに清らかな水が湧き出る「湧水の郷」として知られている。米をはじめとしたさまざまな農作物を育むだけでなく、水中に花を咲かせる「梅花藻」や、他ではなかなかお目にかかることができない淡水魚「イバラトミヨ」など、さまざまな生物の営みを支えている湧水は、100年とも200年とも言われる長い年月をかけ、ゆっくりと地表にしみ出てくる。伏流水として、広大なブナ林が根を張り巡らせる鳥海山の地中を通り抜け地表に出てくる湧水は、ミネラルが豊富で温度も低い。それが海水と混じり合うことでプランクトンが大量に発生し、それを食べる岩牡蠣も大きく育っていくというわけなのだ。
冒頭でもお伝えしたとおり、真牡蠣の多くが養殖であるのに対し、岩牡蠣は天然ものだ。海底や激しい波が打ちつける岩場に育つ岩牡蠣を、酸素ボンベを使わず素潜りで獲る。夏でも冷たい海の10mほどの深さまで潜る必要があるため、ウエットスーツを着て10kg弱の重りをつけて潜っていくのだという。また、山形県は全国で最も海岸線が短い県、つまり漁場が小さい県であるため、漁業者たちが自ら厳しい規制をつくり海の恵みを守ってきた。養殖で数を増やすことができない岩牡蠣のような天然のものは、特に大切にされているため、流通量も限られている。岩牡蠣は漁師たちが守り育て、手作業で一つひとつ獲る、貴重な食材なのだ。

受け継がれてきた伝統に、自分らしい変化を。

そんな貴重な食材をより楽しく味わってほしいという想いから、Restaurant Nicoでは毎年違った料理として岩牡蠣を提供しているという。
「庄内浜の、特に遊佐町吹浦産の岩牡蠣に欠かせないのが鳥海山の伏流水です。それをイメージしながら食べていただきたいなと思い、2018年は伏流水に見立てたジュレにミントを添えた『岩牡蠣のモヒート』としてご提供しています。メインで味付けに使っている塩も、庄内の海水でつくったものなんですよ」。
岩牡蠣に限らず、Restaurant Nicoの料理は形や食材の組み合わせに新しさを感じられるものが多い。その背景には、「フレンチに馴染みがない人にも楽しめる料理を」という太田さんの強い想いがある。
「私の父も料理人で、酒田に洋食文化を持ち込み『酒田フレンチ』という言葉でその文化を根付かせることに尽力した1人なんです。私も一時期父のもとで経験を積み多くのことを学ばせてもらいましたが、次の世代としてやるべきことは、根底にある想いを受け継ぎつつも新しいことをどんどん取り入れていくことなんじゃないかと。その方が、自分もお客さまもより酒田フレンチを楽しむことができると思うんです。だから、うちのスペシャリテである『黒バイ貝のコロッケ』も、毎年形や調理法などを少しずつ変えてお出ししているんです。昔からフレンチに馴染みのある方にはもちろん、なかなか食べる機会がない若い世代にも、楽しんでフレンチを食べてもらえるといいですよね」。
どうしてこの東北の小さなまちに、こんなにもたくさんの洋食店があるのだろう。初めて訪れる方が驚くほどに、酒田市には多くの洋食店がある。
「やっぱり庄内の1番のおもしろさは、食だと思います。フレンチというジャンル1つ見ても、いろんな世代のお店がありスタイルもさまざまです。いろんなジャンルの料理を楽しむのもいいですが、ジャンルを決めて食べ歩きをするのもおもしろいかもしれませんね」。
海、大地、山。それぞれに、四季折々の豊かな恵みがある庄内は、食の楽しみが尽きない場所。何度でも足を運んで、じっくりと楽しんでほしい。

鮎

夏の終わりに、新鮮な川の恵みを。

川魚の代表格である鮎が、海で暮らす期間があることをご存知だろうか。メスは8月下旬から9月にかけて川を下り河口近くに卵を産み、 孵化 ふか した鮎は一定期間を海、もしくは湖で暮らすのだという。その、産卵で川を下る習性を利用した漁法がヤナ漁だ。
川幅が狭く流れが速い地形を利用し、古くからヤナ漁が行われてきた白鷹町の 五百川峡谷 いもかわきょうこく にある「あゆ茶屋」。県内では大江町や舟形町でもヤナを見ることができるが、通常は漁期にのみ設置されるもので、1年中見られるのはここだけだという。しかも規模は日本最大級、迫力満点だ。
「この辺りは岩場が多く餌になる苔の量が豊富で、質もとてもいい。その上鮎の数自体が少ないので、1匹1匹がとても大きく育つんですよ」。ヤナ師としてあゆ茶屋で働く樋口和貴さんはいう。釣りが好きで高校時代にアルバイトとして働き始め、卒業後に就職しもうすぐ20年になるそうだ。水量など川の様子を細かくチェックしながら、絶妙なタイミングで鮎を捕まえるためのすだれを交換するこの仕事に、大きなやりがいを感じているという。

塩焼きや味噌田楽の他、最盛期には獲れたてを刺身でいただくこともできるあゆ茶屋。昆布巻きやうるか、甘露煮など、加工品もたくさんあり、中でも輪切りにして油で揚げた「鮎チップス」はここならではのものだという。さまざまな味付けや食べ方で楽しむことができる鮎だが、樋口さんの1番のおすすめは定番の塩焼きだという。
「塩焼きはほぼ1年中提供させてもらっていますが、最盛期の獲れたてのものは全然味が違います。旬がとても短いのでなかなか難しいかもしれませんが、旬を迎えて味が乗った鮎の塩焼きを、ぜひ味わっていただきたいですね」。
鮎の旬、日中はまだまだ暑い時期だが、山の中は涼しい風が吹くこともある。ひとときの涼と季節の恵みを求めに、訪れてみてはいかがだろう。

TOPICSハレの日を祝う、
庄内の春のごちそう。

サクラマス

同じ親から生まれても、海に下らず川で一生を過ごしたものはヤマメになるという不思議な生態を持つサクラマス。山形県のシンボルでもあるこの魚は、素焼きにしてニラや大根おろしを添えたり、あんかけにしたりして、古くから庄内地方でお祭りなどハレの日に食べられてきた。旬を迎える4月〜5月、最上川や赤川などを遡上するものは「川マス」と呼ばれ、脂がのったその味は「マス類の中でも最高のおいしさ」とも言われ人々に珍重されてきた。

第6の調味料 眺め、遊び、浸かる。おいしい旅の隠し味第6の調味料眺め、遊び、
浸かる。おいしい旅の隠し味

おいしい食事に欠かせないのは、なんと言っても空腹。
足を延ばしていろいろ巡れば、旅はまだまだ美味しくなる。
山形の美食・美酒と一緒に味わってください。
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